これらの観測成果は、Izumi et al. “Supermassive black hole feeding and feedback observed on sub-parsec scales”として米国学術雑誌 Science に2023年11月3日付で掲載 (DOI: 10.1126/science.adf0569) されました。
図:アルマ望遠鏡で観測したコンパス座銀河の中心部。中密度分子ガスを反映する一酸化炭素(CO)の分布を赤色、原子ガスを反映する炭素原子(C)の分布を青色、高密度分子ガスを反映するシアン化水素(HCN)の分布を緑色、プラズマガスを反映する水素再結合線(H36α)の分布をピンク色で示しています。図の中央には活動銀河核が存在します。この銀河は外側から内側にいくにつれて傾いた構造を持つことが知られており、中心部では高密度分子ガス円盤を横から見る形に近づきます。この高密度分子ガス円盤(図の中心部の緑色領域:右上のズームも参照)の大きさは直径約6光年程度で、アルマ望遠鏡の高い解像度で初めて明確に捉えることができました。プラズマ噴出流は、この高密度分子ガス円盤とほぼ直交する方角に出ています。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Izumi et al.
〈研究の背景〉今、天文学において最も謎に満ちた天体として注目されているのが「高速電波バースト(fast radio burst, FRB)」です。わずか数ミリ秒という短い時間で、電波で輝く突発天体です。2007年に最初の発見報告があり、本格的に研究が活発化したのは2013年以降で、まだまだ謎の多い天体です。銀河系の外、それも数十億光年という宇宙論的な遠距離からやってくると考えられていて、これまでに600個以上検出されています。そしてそのうちの50個ほどは、繰り返してバーストを起こす「リピーター」であることがわかっています(その他のものが、一度だけ爆発するのか、ずっと観測すればいつか爆発を繰り返すのかは、まだよくわかっていません)。いくつかの活発なFRB源からは、すでに数千回ものバーストが検出されています。
リピーターFRBを引き起こしている天体は中性子星と考えられています。太陽より8倍以上重い星がその一生の最期に重力で潰れて、超新星爆発(注3)を起こした後に残されるのが中性子星で、質量は太陽の1〜2倍程度ですが、その半径はわずかに10 km ほどで、1 cm3あたりの重量がなんと1兆kgという超高密度天体です(図1)。銀河系内に一千個以上見つかっている「パルサー」は、磁気をもって回転する中性子星が周期的なパルスを発するものです。
注1 高速電波バースト(fast radio burst, FRB) 数ミリ秒程度の短い継続時間で、突然、電波で輝く突発天体。到着する電波の特徴から大まかな距離が推定でき、銀河系の外、それも宇宙論的遠距離(数十億光年)の遠方から来ていると考えられています。その正体はまだ謎に包まれていますが、繰り返して発生する種族は中性子星で起きていると考えられています。
注2 中性子星 超新星爆発の後、重力で潰れた元の星の鉄コアが超高密度のコンパクトな天体として残ったもの。質量は太陽の1〜2倍、半径は10 km ほどで、その内部密度は原子核の内部密度に匹敵します。そのような高密度では、電子は陽子と反応して中性子になるという性質があり、陽子がほとんどなく、中性子を主成分とするために中性子星と呼ばれます。