【プレスリリース】
リュウグウ起源天体の水循環が作り出すクロム同位体不均質
-小惑星帰還試料の同位体分析における重要な指針を提示-

共同プレスリリース
飯塚 毅(地球惑星科学専攻 准教授
橘 省吾(宇宙惑星科学機構/地球惑星科学専攻 教授)

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の横山哲也教授、東京大学 大学院理学系研究科の飯塚毅准教授と橘省吾教授、北海道大学 大学院理学研究院の圦本尚義教授らの研究グループは、Cb型小惑星「リュウグウ」の同位体組成を測定し、リュウグウで生じた激しい水質変成と水循環により、クロム同位体組成の局所的な不均質が生じたことを突き止めました。

リュウグウ試料の初期分析により、Cb型小惑星「リュウグウ」はイヴナ型炭素質隕石に似た化学組成や鉱物組成を持つことが明らかとなったが、クロムの核合成起源同位体異常については、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の間にわずかなズレが見られており、その原因究明が待たれていました。

研究グループは、計5つのリュウグウ試料を対象に、クロム(54Cr)とチタン(50Ti)の核合成起源同位体異常を測定しました。その結果、54Cr同位体異常はイヴナ型隕石の平均値より高い値から低い値まで、有意な変動が見られました。この変動は、短寿命核種であるマンガン-53(53Mn)の放射壊変に由来するクロム同位体(53Cr)の変動と逆相関することから、リュウグウ起源天体で生じた水質変成・水循環により54Crが乏しい箇所と、Mnに富む炭酸塩(53Crに富む)箇所が生じたと考えられます。また、各々のリュウグウ試料(7~24 mg)を合算した物質(約90 mg)の54Cr同位体異常は、イヴナ型炭素質隕石の平均値と一致しました。すなわち、本来の同位体組成を正しく知るには、一定の均質試料の分析が必要といえます。OSIRIS-RExが持ち帰った小惑星ベヌー試料の初期分析においても、不均質の影響を避けるために、一定量(0.1 g以上)の試料を用いた分析が望ましいことが判明しました。

図: 今回分析された全てのリュウグウ試料を合算(約90 mgに相当)した場合のε50Tiおよびε54Cr値。リュウグウの分析試料サイズが大きくなると、先行研究のイヴナ型炭素質隕石の値と矛盾しないことがわかる。(© Yokoyama et al., 2023を一部改変)

本研究成果は、日本時間2023年11月9日に、Science Advances誌にオンライン掲載されました。

詳細については、以下をご参照ください。

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【プレスリリース】
ついに解明!超巨大ブラックホールの成長メカニズムと銀河中心の物質循環

共同プレスリリース
河野 孝太郎(天文学教育研究センター 教授)

国立天文台の泉拓磨助教を中心とする国際研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、近傍宇宙にあるコンパス座銀河を約1光年という非常に高い解像度で観測し、超巨大ブラックホール周辺わずか数光年の空間スケールでのガス流とその構造を、プラズマ・原子・分子の全ての相において定量的に測定することに世界で初めて成功しました。その結果、超巨大ブラックホールへ向かう降着流を明確にとらえ、降着流が「重力不安定」と呼ばれる物理機構により生じていることをも明らかにしました。さらに、降着流の大半はブラックホールの成長には使われず、原子ガスか分子ガスとして一度ブラックホール付近から噴き出た後に、ガス円盤に舞い戻って再びブラックホールへの降着流と化す、あたかも噴水のようなガスの循環が起きていることも分かりました。超巨大ブラックホールの成長メカニズムの包括的な理解に向けた重要な成果です。

これらの観測成果は、Izumi et al. “Supermassive black hole feeding and feedback observed on sub-parsec scales”として米国学術雑誌 Science に2023年11月3日付で掲載 (DOI: 10.1126/science.adf0569) されました。

図:アルマ望遠鏡で観測したコンパス座銀河の中心部。中密度分子ガスを反映する一酸化炭素(CO)の分布を赤色、原子ガスを反映する炭素原子(C)の分布を青色、高密度分子ガスを反映するシアン化水素(HCN)の分布を緑色、プラズマガスを反映する水素再結合線(H36α)の分布をピンク色で示しています。図の中央には活動銀河核が存在します。この銀河は外側から内側にいくにつれて傾いた構造を持つことが知られており、中心部では高密度分子ガス円盤を横から見る形に近づきます。この高密度分子ガス円盤(図の中心部の緑色領域:右上のズームも参照)の大きさは直径約6光年程度で、アルマ望遠鏡の高い解像度で初めて明確に捉えることができました。プラズマ噴出流は、この高密度分子ガス円盤とほぼ直交する方角に出ています。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Izumi et al.

なお、本研究は、天文学教育研究センターの河野孝太郎教授が参加しています。

詳しくは、国立天文台 、国立天文台アルマプロジェクト のホームページをご覧ください。

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【プレスリリース】宇宙嵐を発達させるのは地球起源のプラズマだった
~「あらせ」衛星が従来の学説を覆す発見~宇宙嵐を発達させるのは地球起源のプラズマだった~

共同プレスリリース
笠原 慧 (地球惑星科学専攻 准教授
桂華 邦裕(地球惑星科学専攻 助教

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所のリン キスラー 教授(兼:米国ニューハンプシャー大学教授)、三好 由純 教授、堀 智昭 特任准教授らは、宇宙航空研究開発機構の浅村 和史 准教授、篠原 育 教授、東京大学大学院理学系研究科の笠原 慧 准教授、桂華 邦裕 助教、大阪大学の横田 勝一郎 准教授、及び米国研究者との国際共同研究で、宇宙嵐を引き起こしているのは、従来考えられてきた太陽起源のプラズマよりも、地球起源のプラズマが主要因であることを発見しました。

研究チームは、国際協力によって、日本のジオスペース探査衛星「あらせ」、米国 NASAや欧州ESAの合計4機の科学衛星のデータを用いて解析しました。その結果、地球近傍の宇宙空間(ジオスペース)で、太陽と地球起源のプラズマの組成を分離することに初めて成功し、宇宙嵐時に、地球磁気圏のプラズマが太陽起源から地球起源へと変化することを発見しました。また、宇宙嵐の発達において、はじめは地球起源の水素イオンが支配的であり、その後、地球起源の酸素イオンが宇宙嵐の主要因となることも同定しました。

これは、従来考えられてきた太陽起源のイオンだけでなく、地球起源のイオンも、宇宙嵐の発達に影響を与えることを示しています。宇宙嵐のときには地球周辺の宇宙環境が大きく変化し、人工衛星に障害が生じたり、地上で強い電流が流れたりして送電網に影響が及ぶことがあります。本研究は、宇宙嵐による宇宙環境の変化を理解したり、宇宙嵐を予測したりするためには、太陽からのプラズマだけではなく、地球からのプラズマの挙動を正確に理解する必要があることを示しており、これまでの宇宙嵐の理解に大きな変革を迫るものです。

本研究成果は、2023年10月30日午後7時(日本時間)付イギリス科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

詳細については、以下をご参照ください。

図:日米欧の連携による太陽風とジオスペースの観測。本研究によって、太陽風起源ではなく、地球起源の水素イオンと酸素イオンが宇宙嵐を引き起こしていることが発見された。

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