ISS放出衛星EGG 2017年1月16日に国際宇宙ステーション(ISS)から放出され、2月23日現在、正常に飛行中
高速空気力学と惑星探査工学への応用
教授 鈴木宏二郎(新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻)
助教 渡邉保真(工学系研究科 航空宇宙工学専攻)
私たちは、空気力学(低速から大気圏突入の超高速まで)や流体力学(対象を空気に限らない)の基礎研究で得られた知見を、新しい惑星探査技術へと応用していく研究を行っている。以下に超小型探査に関連が深そうな研究テーマ例を紹介する。
探査機開発に直結する研究:展開型柔軟膜構造を持つ飛行体に関する研究
傘のような展開型柔軟膜構造は、軽量大面積による優れた空気ブレーキ(エアロシェル)効率、従来型の固いカプセルより高い高度での減速による空力加熱(いわゆる”火の玉”状態)環境の緩和、展開方式による収納性などの特長により、大気圏突入宇宙飛行体への応用が期待される。ここでは、実験機を開発して実際に飛行実証することに重点を置いている。2002年より、鈴木が研究代表者となり、JAXAと共同で大気球を用いた高層大気からの落下実験(2003, 2004, 2009)、小型観測ロケットを用いた再突入実験(2012)、国際宇宙ステーション(ISS)から放出される超小型衛星を用いた宇宙での実験(衛星名EGG)を継続的に実施している。展開型柔軟膜構造エアロシェルは、大気密度の薄い火星大気突入と相性が良いため、これを用いた100kg以下の超小型火星着陸探査機の実現を目指した研究も進めている。
観測ロケット実験機sMAAC(直径1.2m) 第23回(2013年度)日本航空宇宙学会賞 技術賞〔基礎技術部門〕受賞
もしかすると探査機開発に直結する研究:ペネトレータのダイナミクスに関する研究
氷へのペネトレータ衝突実験(衝突速度約290m/s)(K. Suzuki et al., J. Flow Control, Meas. & Visualization, 4(2), 56-69, 2016より)
天体表面に高速でぶつかり、そのまま地下にもぐって内部の探査をするペネトレータと呼ばれるプローブは、宇宙飛行の運動エネルギーを地面貫入に利用するため、超小型天体内部探査に役立つかも知れない。一見、空気力学と関係ないように見えるかも知れないが、高速での衝突現象は破砕物が流体的挙動を示すため、守備範囲になり得る。高速空気力学のノウハウを利用して実験(衝撃風洞を改造した空気銃での衝突実験)や貫入ダイナミクスモデルの開発と数値解析などを行っている。
直結しないかも知れないが確実に役立つ基礎的研究:大気圏突入の超高速流れに関する研究
秒速6.7km/sでN2雰囲気中を飛行する球まわりの熱化学反応流れシミュレーション
探査機が大気圏に突入する速度は非常に速く(周回軌道からだと、地球で約8km/s、火星で約3.5〜4km/s程度)、超高速で大気が機体表面に衝突して運動エネルギーが熱に変換されるため、飛行体まわりの気体は高温となり、化学反応や熱的非平衡など複雑な現象を引き起こす。一方、探査機表面は厳しい空力加熱に曝され、昇華などの相変化や熱分解などの化学的変化を起こして損耗していく(いわゆるアブレーション)。これらの理解には、人工物(探査機)か天然物(隕石)かにかかわらず、極超音速高エンタルピー流体力学と呼ばれる共通的な流体力学分野の基盤を必要とする。数値流体力学(CFD)による数値解析や高速風洞を用いた実験による研究を行っている。
研究室ホームページ
http://daedalus.k.u-tokyo.ac.jp/laboratory/index.html
東大柏キャンパス極超音速高エンタルピー風洞ホームページ
http://daedalus.k.u-tokyo.ac.jp/wt/wt_index.htm